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【シーズン1 第14話】パブロカザルスと行動観察

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「ビアティゴルスキーというチェリストがまだ新人だった頃、演奏会で聴衆の中に、巨匠カザルスの姿をみつけ、すっかり緊張してあがってしまった。やっとのことで演奏を終えた時、客席からカザルスが盛んに拍手を送っていてびっくりさせられた。

 後年、ビアティゴルスキーも立派なチェリストになっていて、ある日カザルスに出会った時、『なぜ自分の新人時代、聴衆になって下さって、明らかに下手と思われる自分の演奏に対して、なぜあんなに盛大な拍手を送って下さったのですか?』と訳を尋ねた。

 するとカザルスはそれに答えて、手許にチェロを持って来て『あなたはあの時、左手でチェロをこうかかえて、右手の弓をこう使って、この曲のあの一節をこう弾きました。その中の一つの音は、私が長い間捜し求めていた音でした。私はとても感動しました。あの音はこう弾けば美しい音になるのだとわかったからです。』」

               ― ピアティゴルスキー「チェロと私」(白水社)より

 ユーザーの導入事例から学ぶものはたくさんありますが、往々にしてその企業規模や知名度などの先入観で受け止めてしまうのが一般的です。しかし、新人ビアティゴルスキーの演奏から自らが学ぶべき点を発見し、秘められた可能性を見出したパブロカザルスの姿勢には学ぶべきものがある、と私は思います。

 そこで、パブロカザルスになった気持ちで、「アクセス解析データなし」「デザイン変更なし」でもユーザー行動観察で問い合わせを10倍にした方法の事例記事を読んでみましょう。

 この事例は、アウトカムとしてPV(ページビュー)などでなく、問い合わせが10倍になったとあり、顧客創造(Create a Customer)に直結した事例であることはもちろん、アクセス解析もデザイン変更もしていないことに驚かされます。

「ウェブマーケティング・ウェブ解析というと、ホームページをはじめとしたデジタルチャネルと極めて相性が良く、また近年のビッグデータ流行もあり、得てして『定量データや数値をいかに分析するか』という発想になりがちです。しかし、今回の事例でご紹介した通り、ユーザー行動観察というアナログな手法の方がむしろ、ユーザー心理の理解に非常に効果的で、大きなビジネス成果につながるヒントやアイデアを得られます。」

 この自動車保険代理店の事例から行動観察というアナログ手法が「精密に間違うのでなく、大まかに正しいこと」(パトリック・ホイットニー)のひとつの方法だということが分かります。そして、行動観察は特別な手法やスキルを必要としない、対人コミュニケーションスキルの延長線上にあるもので、万人にとって習得しやすいものということもよく分かります。

 IT部門の方が、行動観察というと思い浮かべるのは大阪ガス行動観察株式会社ではないでしょうか。そのサイトに9社ほどの「WEBマーケティング 導入事例 Case」が紹介されており、各事例の内容(MORE)を確認してみると「サイトが使い安く」「運用が楽になった」とあります。

 もう一度、前述の小さな自動車保険代理店の事例を確認すると、「2013年1月にリリースしたところ、改善直後から問い合わせ数が一気に10倍近くを記録し、その後も毎月同じペースで推移しています」とあります。

 先入観を持たず、パブロカザルスのような姿勢で、大阪ガス行動観察株式会社の9社のWebマーケティング事例と、前述の自動車保険代理店の計10社の事例を並べてみると、マーケティングのアウトカムという美しい音色はどの事例に秘められているのでしょうか...

「あなたはあの時、左手でチェロをこうかかえて、右手の弓をこう使って、この曲のあの一節をこう弾きました。その中の一つの音は、私が長い間捜し求めていた音でした。私はとても感動しました。あの音はこう弾けば美しい音になるのだとわかったからです。私はこの音の出し方をあなたから学んだ。 例えあなたが出した百の音が悪くても、そのうちの一つを私が学べば、あなたは私の先生なのです。私は、私にものを教えてくれる先生に対しては、いつも心からの感謝を込めて最大の拍手を送るのです。

 パブロカザルスの愛奏曲であるカタロニア民謡「鳥の歌」Pau Casals: Song of the Birds(4:17)でも聴きながら、ひとりのチェロリストの姿勢から、お互い「何か」を学びたいものですね。

● 雑談のネタ【Coffee Break】
https://blogsmt.itmedia.co.jp/CMT/coffee-break/

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